最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)682号 判決 1953年5月29日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告理由第二点(イ)について。
原審は、本件債権譲渡については、債務者たる上告銀行が事前の承諾をなした事実を認定しているだけで、右譲渡の後において民法四六七条一項所定の通知承諾があつた事実を認定していないことは所論のとおりである。しかし原判決の理由を通読すれば、原審は、本件預金債権については最初当事者間に譲渡禁止の特約があつた事実、そして債権者たる和歌山県農業会は、本件債権を被上告人に譲渡しようとするに当り、前記譲渡禁止の特約があつた関係上、特に予め債務者たる上告銀行から右譲渡の承諾を得たものであり、ひつきよう上告銀行はこれにより右譲渡禁止の特約を解いて被上告人に対する本件債権譲渡につき同意をなした事実を認定した趣旨であることを十分看取することができるのである。而して右の如く債権譲渡の目的たる債権及びその譲受人がいずれも特定している場合に、債務者が予めその譲渡に同意したときは、その後あらためて民法四六七条一項所定の通知又は承諾がなされなくても、当該債務者に対しては右債権譲渡をもつて対抗し得るものと解するのが相当である。けだし、かかる場合右債権譲渡を債務者に対抗し得ると解しても、当該債務者には、なんら債権の帰属関係が不明確となり二重弁済その他不測の損害を及ぼす虞はないからである。されば原審が前記の如き事実関係の下において、本件債権譲渡をもつて債務者たる上告銀行に対抗し得る旨判断したのは相当であつて、論旨は理由がない。
その他の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)